
アメリカに住む日本人にとって、犯罪情報・防犯知識は必須です。コロナ禍を経て、地域によって違いはあれど、発生する犯罪の種類も少し変化しています。本特集では、在米邦人が知っておくべき最新の犯罪情報をはじめ、気になるヘイトクライム、そして銃社会での心構えなどをご紹介します。(2025年9月)
データで見る犯罪状況 財産犯罪が多いシアトル、ポートランド(ノースウエスト地域)
FBI(アメリカ連邦捜査局)が2025年8月に発表した2024年の「Crimes in the Nation Statistics(犯罪報告書)」によると、殺人罪と過失致死罪の件数は前年比14.9%の減少を記録しました。また、強姦(2024年からカテゴリー内容を一部改訂)は5.2%減少、暴行は推定3.0%減少、強盗は推定8.9%減少を記録しています。
財産犯罪は全米で前年比で8.1%減少しています。ところが、財産関連の犯罪率だけで見るとワシントン州とオレゴン州は全米平均より高いというデータもあり、決して油断はできません。比較的裕福な州ならではの犯罪と言えるかもしれません。
ちなみに、各警察、郡、市では、独自の犯罪データや犯罪マップなどを提供しています。調べたい市や郡の名前と共に「Crime Data Map」と入力してインターネットで検索をかけると、知りたい地域の犯罪マップが出てきます。発生した全ての犯罪が報告されていなかったり、最新の犯罪状況を正確に捉えていない可能性もあったりしますが、現在住んでいる町、今後住む予定の町、学校区などの治安を知る上では役に立つ情報といえるでしょう。
◎Seattle Online Data Maps
◎Portland Maps
アメリカの犯罪発生状況
全米
(出典:FBI 2024 Quarterly Crime Report *2023年と2024年を比較)
【暴力犯罪】4.5%減少
(殺人14.9%減少、強姦5.2%減少、強盗8.9%減少、加重暴行3.0%減少)
【財産犯罪】8.1%減少
シアトル市
(出典:City of Seattle)
【暴力犯罪】
2023年: 5386件 → 2024年: 5407件
【財産犯罪】
2023年: 4万0653件 → 2024年: 4万0435件
ポートランド市
(出典:Portland Police Bureau)
【暴力犯罪】
2023年: 1万1242件 → 2024年: 1万0827件
【財産犯罪】
2023年: 3万7040件 → 2024年: 3万4939件
*暴力犯罪は殺人、強姦、強盗、暴行の総計。ただし、シアトル市は加重暴行(凶器を使用、重症など)のみをカウント、ポートランド市は暴力系犯罪全般をカウントしています。財産犯罪は自動車窃盗、住居侵入、窃盗の総計。
人口10 万人あたりの年間発生件数(2024)
| 住居侵入 | 窃盗 | 車両窃盗 | |
|---|---|---|---|
| 全米 | 250.7 | 1343.9 | 317.2 |
| ワシントン州 | 481 | 1724.5 | 681.2 |
| オレゴン州 | 339.8 | 1837.5 | 413.4 |
日本語で発信 アメリカの総領事館の安全情報
お住まいの地域の治安や安全対策について日本語で知りたい場合は、アメリカにある日本国総領事館が提供する情報を利用するのもよいでしょう。日本国総領事館は「その地域の在留邦人の保護や情報の収集」などさまざまな仕事を行っていますが、生活する上での注意点など有益な情報を提供しています。ワシントン州には在シアトル日本国総領事館、オレゴン州には在ポートランド領事事務所があり、それぞれ『安全の手引き』や『海外安全対策情報』をウェブサイトに掲載しているので、ぜひチェックしてみてください。
※在シアトル日本国総領事館
https://www.seattle.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/anzen_tebiki_se.html
※在ポートランド領事事務所
https://www.portland.us.emb-japan.go.jp/files/100199524.pdf
総領事館が注意喚起 最新犯罪情報と対策
コロナ禍では殺人や車両盗難が増加、一方で強盗と窃盗は、ロックダウンの影響で自宅で過ごす機会が多く、その発生件数は減少していました。アメリカで生活する日本人がどのような犯罪の被害に遭いやすいのか、在シアトル日本国総領事館の大村宏亮領事に伺いました(数字は2024年12月時点のものです)。
2023~2024年に在シアトル日本国総領事館の管轄内において、犯罪の種類や発生件数は、地域によって異なるものの、全体的に見ると23年に比べ減少か横ばいです。一方で、路上強盗、車上強盗、後追い強盗(後をつけられ家で被害に遭う)、集団スリ、住居侵入、空き巣などは増加しており、日本人が多く住む比較的安全な地域でも注意が必要です。また、全米で増えているのは性犯罪で、例えばマッチングアプリを利用しバーで出会った異性に薬を盛られるなどの被害があるそうです。今のところ在留邦人の被害報告はないものの、コロナ禍を経て拡大した出会いや交流の機会を悪用し増加している犯罪だと言えます。大村領事によると、日本人被害事案としては、以下のような一般犯罪が増えているそうです。
日本語によるアメリカでの「特殊詐欺」
現在、主に電話やテキストによる日本人をターゲットにした特殊詐欺が問題になっています。アメリカでは「フィッシング詐欺(Phishing Scam)」と呼ばれる犯罪で、「荷物が配送された(You have a package delivery)」「新しい請求書が届いている(You have a new billing statement)」といったメッセージを受け取ったことがある人も多いのではないでしょうか。
新たな特殊詐欺は、日本人を対象にしたもので、実際に被害に遭った在留邦人も少なくありません。2024年の10月頃から被害件数が増えており、被害者の年齢層はアメリカに長く暮らし、社会的地位や金銭的にも余裕のある40~60代です。在シアトル日本国総領事館は、事態を重く見て、これまで数回にわたり注意喚起の領事メールを送信しています。
その手口は非常に巧妙で、連絡してくる相手は、警察官や税関職員、日本大使館、総領事館などの公的機関の職員、そして銀行やクレジット会社と幅広く、こういった実在の機関などを「装い」、さらに日本語を話すのが特徴です。日本から電話がかかってくることもあり、表示される電話番号が実在するものだったり、すでに相手が自分の名前や住所などの一定の個人情報を知っていたりするため、つい信用してしまいます。不正利用などの犯罪に関与している、または何らかの容疑で裁判所から召喚状が来るなどとほのめかし、さらに「逮捕」や「強制送還」といった言葉で不安にさせ金銭要求やクレジットカード情報を引き出すのです。場合によっては、新たにその通話を(偽の)警察官に転送し「グリーンカードやビザが凍結されたのでソーシャルセキュリティーナンバー(SSN)が必要だ」と言われることもあります。米国に在留する在米邦人にとって、ソーシャルセキュリティーナンバーは銀行の暗証番号と同様に重要な情報なので、決して提供しないでください。
いったん詳しい個人情報を与えてしまうと、別の電話がかかってくることもあります。多額の被害に遭った人もおり、送金してしまうと取り返すのはほぼ不可能です。被害に遭った人たちは、後で冷静になって考えると、なぜあの時に金銭や情報を与えてしまったのかと後悔するのですが、その時は心理的にそのような状態に陥ってしまうそうです。身に覚えのない内容で金銭などの要求をされたら、いったん電話を切りましょう。もし電話を切ることができなければ「1時間後に電話をして」と伝え、誰かに相談するなど、1人で抱え込まないことが大切です。大村領事は「日本政府や公的機関が個人情報を要求したり、銀行口座番号・クレジットカード番号情報を電話で聞いたりすることは絶対にありません」と注意を促しています。
もし被害に遭ったら、銀行やクレジット会社への使用停止依頼やクレジットフリーズ(セキュリティーフリーズとも呼ばれます。クレジット情報を凍結させ新しいアカウントの作成ができなくなります)、クレジットレポートエージェンシーからクレジットレポートを取得する(アメリカでは毎年1回、法律によって三つの信用情報機関Equifax、Experian、Trans Unionから無料で信用情報の報告書を取得できます。USAGovの公式サイトを参照してください)、FBIや最寄りの警察に詐欺被害を報告する、など早急に対応しましょう。
在米日本人をターゲットにした特殊詐欺 事例1
東京税関の職員を名乗る者から「あなたがアメリカから日本に宅配便で送った荷物の中から禁止薬物が発見された」という電話があった。空港警察署の職員に電話が転送され、同日中に出頭して被害届を提出するよう促されたが、対応が困難と伝えると「パスポートが取り消され強制送還となる」と告げられたほか、「あなたは容疑者の立場にあるため、このことは口外してはいけない」「他の電話にも出てはいけない」「総領事館もグルなので相談してはいけない」などと言われた。
在米日本人をターゲットにした特殊詐欺 事例2
在ニューヨーク日本国総領事館の職員を名乗る者から「あなた名義の口座に犯罪者集団からの多額の入金が認められ、マネーロンダリングに利用されている」「あなた名義で不正に契約された携帯電話が特殊詐欺集団に利用されている」という電話があった。山口県警察の警察官を名乗る者に電話が転送され、「リモートで調書を作成するための取調べ」と称してスカイプやLINEのビデオ通話で面談が行われ、個人情報やクレジットカード番号等を求められた。「このままでは逮捕される。逮捕を免れるには保釈金の支払いが必要」などと言われ多額の送金を求められた。
(在ロサンゼルス日本国総領事館ウェブサイト「注意喚起 税関職員や警察官などを名乗る電話詐欺」(2024年12月24日掲載)より抜粋
路上駐車二次元コード詐欺
近年、路上駐車場に設置された精算機を利用した詐欺がアメリカ国内で増えています。精算機に貼ってある二次元コードをスマートフォンなどで読み取り支払う仕組みですが、正規のシールではなく偽のシールを上から貼って、支払いを誘導したり、個人情報を抜き取ったりするものです。例えば2024年8月、カリフォルニア州では、約150台の路上駐車のメーターに貼られた正規業者(複数)の二次元コードの上や近くに偽のシールが貼られる事件がありました。
対策としては、二次元コードを利用せずパーキングメーターで直接支払う、二次元コードのシールが二重に貼られていないかどうか確認する、振り込み先をチェックする、クレジットカードの明細書を確認するなどがあります。二次元コードを利用する際は注意しましょう。
抗議活動・テロなどの発生
アメリカでも、中東情勢やウクライナ侵攻などに対する注目度は高く、全米各地で抗議活動が行われています。仮に平和的なデモや集会であっても、反対派と衝突する可能性は十分あります。住んでいる地域の大通りや大学構内など、比較的身近なところでも行われていますが(抗議活動の内容を把握しないまま)不用意に近付かない方がよいでしょう。プラカードやシュプレヒコールをあげていたら距離を取る方が賢明です。
近年、観光施設周辺やイベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設など、人がたくさん集まる場所を標的としたテロが頻発しています。大きな事件が起こった直後は金属探知機を設置するなど警備が厳しくなっても、時間が経つにつれ次第に手薄になることもあります。シアトル、そしてポートランドには数多くの観光地があり、人が集まる場所が多いので非常口を確認するなど常に注意を払いましょう。
また、毎年3月ごろ(月の位置によって始終日が変わります)はイスラム教のラマダン(断食月)、その後4月ごろまでレバラン(断食明け大祭)となります。2001年のアメリカ同時多発テロ以降、イスラム教徒に対する憎悪や偏見などからくる「イスラム恐怖症」もあるため、特にこの時期はテロへの警戒を怠らないようにしましょう。
クレジットカード・スキミング詐欺
アメリカ連邦取引委員会(FTC) の最新報告書「Consumer Sentinel Net work Data Book 2023」によれば、2022年にはクレジットカードに関連する個人情報の不正使用に関する報告が41万6582件寄せられました。クレジットカードに関連する犯罪は数多くありますが、近年はスキミングが増加しています。これは、「スキマー」という装置を使ってカードの裏面にある磁気ストライプ(黒または茶色の細い帯状の部分)から情報を盗む方法です。ATMや小売店、ガソリンスタンドのクレジットカード読み取り機にスキマーを取り付けるほか、カードを財布に入れていても、1メートル範囲内ならカード情報を抜き取ることが可能です。対策としては、磁気ストライプより高いセキュリティーと多機能を持つICカード(ICチップが埋め込まれたカード)や、iPhoneやアップルウォッチで決済できる「アップルペイ」などのカードを使用しない支払い方法、もしくはカードの磁気情報を遮断するスキミング防止の財布やカード入れ、カードを使用するなどがあります。

スキミング防止カード(手前の紺色のカード):使用している財布に入れるだけ。価格も安価です。オンラインで購入可能。
ワシントン州、オレゴン州で増加中 交通局をうたった詐欺
近年、アメリカ国内で被害者が続出して問題になっているのが、交通局(WSDOTやODOT)を名乗る者による詐欺です。未払いの通行料があると請求の最終通告を送っているように見せかけ、入金しないと手数料の追徴や車両登録の抹消があると脅すようなテキストを送ってきます。交通局や警察では、詐欺師集団が全米で同様の手口を展開し、詐欺師集団内で銀行の情報などを共有しているとみています。仮に未払いがあったとしてもWSDOTはテキストやメールでは請求せず、いつどこで発生したどのような料金が未払いであると明記した書類を郵送しますし、ODOTはそもそもトールプログラムを持っていません。テキストが送られてきてもリンクはクリックしないようにしましょう。
また、オンラインの詐欺メールやテキストを受け取った方へ向け、FBIのサイバー犯罪専門部署IC3では常時報告を受け付けています
犯罪を未然に防ぐ対策ポイント
大村領事によると、アメリカ生活における一般的な予防というのは「目立たない」「用心を怠らない」「行動を予知されない」ことになります。
目立たない
具体的には人目を引くような服装や装飾品を避ける。周囲を刺激するような言動をしない。
用心を怠らない
高価なものや現金を他人に見せない。周囲に目を配る。手荷物やバッグのジッパーは開口部を自分の体の方に向ける。多額の現金を持ち歩かず、また財布などの一カ所でまとめず分散させる。見知らぬ人に話しかけられた時もむやみに信用しない。夜間の一人歩きはなるべく避ける。スマホを見ながら、またはイヤフォンをしていると格好のターゲットになる。在米生活が長い場合でも、生活圏内から出てしまうと観光客になってしまうので、スリや置き引き、車上荒らしに注意する。
行動を予知されない
毎朝のジョギングなど習慣的な行動には注意する。通勤・通学における時間帯やルートを変える、個人情報は、不用意にSNSにのせない。
また、犯罪に遭ってしまったら警察や弁護士、保険会社などに早急に連絡しましょう。ポリスレポート番号を入手しておくと、のちのち保険会社などへの手続きの際に役立ちます。生命、身体、財産に危害が及んだ場合は、地元警察へ通報するとともに、総領事館への報告も行いましょう。在留邦人への注意喚起や、ひいては犯罪抑制にもつながります。
在シアトル日本国総領事館、在ポートランド領事事務所では在留邦人に向けた当地の安全情報をウェブサイトや電子メールで提供しています。電子メールは在留届に記載されているメールアドレスに送信しているので3カ月以上滞在している人は、今すぐ提出を。
外務省「オンライン在留届」「たびレジ」
https://www.ezairyu.mofa.go.jp/RRnet/
監修:在シアトル日本国総領事館
大村宏亮領事
在ポートランド領事事務所
江入信之領事
空き巣対策に 郵便物をストップ
郵便物を一時的に止めたいときは、アメリカの郵便局の「ホールド・メール・サービス」を利用すれば、最短3日から最長30日間まで郵便物を保管してくれます。30日間を超える場合は「フォワード・メール・サービス」に登録する必要があります。申し込みは、USPSのウェブサイトで30日前から受け付け可。
一時帰国や出張など、長期に留守をする機会がある人は、防犯のために利用するとよいでしょう。
ワシントン、オレゴンではOKの「大麻」、在留邦人は日本の法律の遵守を
ワシントン州とオレゴン州では、21歳の成人が嗜好品として大麻(マリファナ、ウィード、ポット)の所持や、自宅などでの使用が合法となりました。一方、日本では2024年12月12日から「改正大麻取締法」が施行され、すでに禁止されている「所持」「譲渡」に加え「使用」が禁止となりました。単純所持罪の罰則は「7年以下の拘禁刑」です。たとえアメリカで合法でも日本では罪に問われる場合があります。日本国外であっても適用される場合があるため、決して大麻に手を出さないようにしましょう(外務省 海外安全ホームページより)。
ホームレス増加における注意点
2023~2024年にかけて、ワシントン州とオレゴン州のホームレスの増加率は16%を超え、共にアメリカ国内の増加率の高い州トップ5に入ります。2024年12月の時点でワシントン州には3万1554人、オレゴン州には2万2875人のホームレスがいるとされています。ホームレスが多く住むエリアの多くは、人通りが少なかったり、薬物乱用や精神的健康問題など複雑な要因が絡み合っていることもあります。その一帯での徒歩は避ける、不用意に近付かないなど注意が必要です。
(出典:The 2024 Annual Homelessness Assessment Report to Congress)
車上荒らしや部品盗難 自動車関連の犯罪と防犯対策
近年、アメリカでは自動車関連の犯罪が増加しています。FBIによると、車両盗難は全米で12.6%増(2023年1月~12月データ)となっています。自動車そのものを盗まれなくても、車上荒らしや部品盗難は誰もに起こり得る犯罪です。特に、ガソリン車やハイブリッドカーに搭載されているキャタリティックコンバーターの盗難は2022~ 2023年のコロナ禍では特に被害が多発しました。現在は少し落ち着いているものの、依然として注意が必要です。自動車関連の犯罪と防犯対策について、ハイブリッドカーの販売・リースを行っているエコドライブ社代表、鈴木敦さんに話を伺いました。
車上荒らし
多くは車内に貴重品が見える状態で置かれていることが一番の原因です。以下の対策を徹底することで被害を防ぐことができます。
防犯対策
- 車内に物を置かない:バッグや電子機器はもちろん、荷物や毛布などの下に何かを隠しても、それが興味を引いてしまう可能性もあるため、トランクに入れておきましょう。
- 長時間同じ場所に駐車しない:リモートワークの影響や駐車場事情から、同じ場所に数日間駐車する人がいますが、できるだけ頻繁に場所を変えましょう。
- 明るく人目につく場所に停める:街灯の下や監視カメラがある場所など、安全な駐車場所を選ぶことが大切です。
- ドラレコや警告シールを利用する:ドライブレコーダー( ダッシュカム)や車に「Video Recording inProgress」といったシールを貼るだけでも、犯罪の抑止効果があります。

安全対策の一環として、「Video Recording in Progress(ドライブレコーダー録画中」などの警告シールを車に貼るのも手です。
部品盗難
マフラーのパーツであるキャタリティックコンバーターは、車の排気ガスを浄化する装置で、内部には高価な金属が含まれています。新車は近年メーカーが防犯対策を強化していることもあり、中古車がより盗まれやすい傾向があるようです。
防犯対策
- ゲート内やガレージに駐車する:できるだけゲート内や屋内など、外部の人が侵入しにくい駐車場を利用するようにしましょう。
- 人目につく場所に駐車する:人通りの多い場所に駐車することで、犯行を抑制できます。
- コンバーター専用のプロテクターを取り付ける:犯人は一度盗難に成功すると、コンバーターを新しく搭載した時に再び戻ってくることが多くあります。実際に、同じ車でキャタリティックコンバーターを3回盗まれた人もいるそうです。

EV(電気自動車)
近年人気のEVですが、以下のようなことに注意しましょう。
防犯対策
- 夜間の充電を避ける:ある一定の時間がかかる充電は、犯罪のリスクを避けるため、昼間や明るい場所、人が多い場所を選びましょう。特に、女性が夜間に充電ステーションを利用する際は、できるだけ複数の車が停まっている場所を選び、車内にいる時もドアをロックする、不用意に車外に出ないようにするなど注意してください。
- 充電器の盗難対策を:家庭用のEV充電機器が盗まれるケースもあります。屋外のカーポートなどで外付けのコンセントを利用している場合は、鍵付きのプロテクトカバーを利用するなど対策を行いましょう。
![]() | エコドライブ 鈴木 敦 さん |
以上の内容に加えて、アメリカ生活における犯罪や、被害リスクを回避するための方法、被害者の実際の体験談は、当ページ下に掲載のアメリカ防犯ガイド2021をご覧ください。
アメリカ国内でのヘイトクライム 最新事情
人種、民族、祖先、宗教、性的指向、障害、性別、性同一性に対する偏見から起こるヘイトクライム。ヘイトを理由に発生した犯罪事件(Crime)を、ワシントン州法ではBias Motivated Offenses、オレゴン州法ではBias Crimeと呼び、ヘイトを動機とした公共の場所での差別的な呼びかけ、侮辱、憎悪的資料の配布などの行動や行為(Incidents)を、ワシントン州法ではBias MotivatedIncidents、オレゴン州法ではBiasIncidentsと呼んでいます。
アメリカ国内を通して見ると、2023年には1万1862件のヘイトに関する犯罪事件と、1万3829件のヘイトに関する犯罪行為が発生しました。24年には犯罪事件が1万1679件、犯罪行為が1万3683件となっています。犯罪行為が人や財産を脅かし始めると、犯罪事件を引き起こす可能性があります。
報告件数横ばい、人種や民族が原因の1位
ワシントン州のヘイトクライムは2023年に623件、オレゴン州は315件で、どちらも2年前と比べてほぼ横ばいとなっており、両州共に、その原因の1位は人種や民族を理由にした差別、2位は性的指向の差別となっています。アジア系を対象としたヘイトクライムはコロナ禍中をピークに現在は減少傾向にあり、また、不法移民が話題になった23年はヒスパニック系のヘイトクライムが増えるなど、社会情勢を反映しているのがヘイトクライムの特徴です。
被害に遭ったら日本語で被害報告も可能
もしヘイトクライムの被害に遭ったと思われる場合は、地元の法執行機関に報告し、以下のような対応を検討しましょう。
- 差し迫った危険がある場合は、911に電話し必要に応じて医師の診察を受けてください。
- 相手に言われた言葉などを書き留める、録音するなど正確に記録する。またその他の関連することも同様に記録しましょう。
- 安全であれば、全ての証拠を保存して写真を撮りましょう。現場に居合わせた他の被害者や目撃者の連絡先を入手してください。
- 住んでいる地域でヘイトクライムに取り組んでいるコミュニティー組織に連絡してください。
ヘイトクライムは州や郡に報告することも可能です。報告することで介入や予防が必要な地域の特定に貢献できるほか、サポート情報などを知ることができます。
ヘイトクライムの件数
| 2021 | 2022 | 2023 | |
|---|---|---|---|
| ワシントン州 | 651 | 590 | 623 |
| オレゴン州 | 295 | 339 | 315 |
出典:U.S. Department of Justice
ヘイトクライム関連の被害報告
ワシントン州 Office of the Attorney General
Hate Crimes and Bias Incidents Hotline
ワシントン州でのヘイトクライム関連のホットライン。被害者の支援や、支援サービスの紹介を行います。電話では通訳を頼めます。
https://www.atg.wa.gov/report-hate
TEL: 1-855-225-1010
月〜金9:00am-5:00pm オンラインは24時間受付
オレゴン州 Department of Justice
Reporting Bias to the Hotline
オレゴン州でのヘイトクライム関連のホットライン。被害者の支援や、支援サービスの紹介、警察への届出のサポートを行います。電話では通訳を頼めます。
https://bit.ly/4lAqepF
TEL: 1-844-924-2427
月〜金9:00am-5:00pm オンラインは24時間受付
全米
Stop AAPI Hate
コロナ禍中、アメリカでアジア系住民を狙ったヘイトクライムが全米各地で発生したことを機にサンフランシスコ州立大学の学生たちが立ち上げた団体。サポートはベイエリアが中心ですが、カリフォルニア州外の人もレポートをすれば今後の研究に役立ててもらえます。
FBI
FBIでもヘイトクライム情報の提供を呼びかけています。
https://tips.fbi.gov/violation-selection
アメリカでの銃犯罪
アメリカと日本の大きな違いの一つに、銃を携帯できることがあります。もちろん携帯する資格(許可)には州によって異なる法律や要件がありますが、一般市民でも比較的簡単に銃を手に入れることができるのです。ショッピングモールや学校などの公共の場で、乱射事件が発生することも多く、犠牲者は後を絶ちません。25年にアメリカ国内で発生した銃乱射事件の数は、8月の時点で、すでに275件を超えています。キング郡では2025年1〜3月の間に、銃による事件は278件発生し、13人が死亡。決して他人事ではありません。
銃になじみのない日本人にとっては、発砲音すら分からないことがあるので、アメリカで生活する以上、日頃からいざという時に備えて乱射事件が発生した場合の対応方法を知っておいた方がよいでしょう。
乱射事件に巻き込まれたら「逃げる」「隠れる」「戦う」
FBIが制作した安全対策の動画「Run、Hide、Fight」では、「逃げる」「隠れる」「戦う」という三つの重要なステップで生存率を高める方法をとても分かりやすく紹介しています。
ステップ 1:逃げる(Run)
まずは「逃げる」ことが最優先です。迅速に安全な出口を見つけ、警察の指示に従って行動します。所持品はその場に置き、手を挙げて周囲に見えるようにします。
ステップ:2隠れる(Hide)
逃げることができない場合、犯人から見えない安全な場所に隠れ、ドアに鍵をかけて机や椅子などがあればバリケードを作ります。また携帯電話の音を消し、次にどのような行動を取るかを考えます。
ステップ 3:戦う(Fight)
これは最後の手段です。身の回りの物を使い、可能であればその場にいる人たちと力を合わせて戦います
テキサス州ヒューストン市市長公共安全室と国土安全保障省が作成した「RUN HIDE FIGHT ~無差別銃発砲事件に巻き込まれた場合の対処法~」には日本語字幕版があります。
※「ステップ3 戦う(Fight)」について
なお、在ロサンゼルス日本国総領事館の「安全の手引き 2024年8月改訂」「Fight」について以下のように言及しています。
「米国国土安全保障省が提唱している『Fight』とは決して積極的に闘うことを推奨しているわけではなく、逃げることも隠れることも選択できない状況に陥ってしまった場合は、生き延びるために、犯人と闘うことも選択肢の一つであるという趣旨です。『Fight』を選択せざるを得ない場合には、身の回りの物全てを武器とし、絶対に生き延びるという強い意志のもと、手段を問わず、徹底的に犯人に抗戦してください。『撃たれること=死ぬこと』ではないので、命ある限り戦い続け、必ず来る助けを待ってください。相手に隙があればすぐに逃げてください」。
学校での銃乱射事件を軽減 銃乱射・自殺予防プログラム
学校に通う子どもがいる場合は、頻発する学校での乱射事件も大きな問題です。12年12月にコネチカット州で発生したサンディフック小学校での悲劇を機に、当時のオバマ大統領が主導し、銃乱射事件や自殺などの防止を目的に設立されたのが非営利団体「サンディフック・プロミス」です。現在、全米3万4000校以上が参加しており、「Say Something」などのプログラムを通じて関係機関に事件につながるような問題を早期に通報することで事件を防止しています。具体的には、SNSでの暴力的な発言や危険な兆候、異常行動を見つけたら大人に知らせたり、自殺を思いとどめたりといった成果を挙げています。「サンディフック・プロミス」によると、危険な兆候と若者のメンタルヘルスに関する包括的なプログラムなどを推進することで、16件の計画的な学校銃乱射事件と多くの暴力行為を防止したそうです。
保護者や周囲の大人たちは、このようなプログラムについて知識を得たり、わが子だけでなく周囲の子どもたちとコミュニケーションを取ったりすることで、悲劇を未然に防ぐことができるかもしれません。
当ページ下の「アメリカ防犯ガイド2021」でも、2021年時点でのアメリカ生活における犯罪や、被害リスクを回避するための方法、被害者の実際の体験談を掲載しています。
【掲載内容】
- 犯罪別の防衛策・対処法
- 車上荒らし・車両盗難
- 空き巣
- 銃犯罪
- 日本人が巻き込まれやすい犯罪
- 日本人が巻き込まれやすい犯罪とアジア系へのヘイトクライム
- 個人情報詐欺
- アジアンヘイト
- ヘイトクライムの体験談
アメリカ防犯ガイド2021
長期間のロックダウンを経て、コロナ禍前と比べて犯罪の質や件数が変化した2021年にお届けした特集「アメリカ防犯ガイド」。現在も参考になる被害リスクを少しでも回避するための方法、また被害者の実際の体験談をお届けします。
(ライトハウス 2021年7月号掲載)
犯罪別の防衛策・対処法
車上荒らし・車両盗難
最近の車はセキュリティーが充実していることから、車の周りを不審者がうろついていたり、仮に車を乗り回していたりしても、遠隔でアラームやパニック装置を作動させて周囲に犯罪を知らせることができます。また、昔のように簡単に鍵をこじ開けられなくなったため、車上荒らし自体は減ってきました。
その分、犯人と遭遇する可能性が逆に高くなりました。つまり、犯人が駐車中の車のそばでドライバーが戻ってくるのを待つようになったのです。待ち伏せしていた犯人に脅されたら、絶対に抵抗してはいけません。大声で助けを呼んだりすることも、犯人自身をパニック状態に陥れ、暴力を振るわれる確率が高まります。重要なのは犯人の要求に無条件で従うことです。犯人が欲しいのは金品なので、それを速やかに渡すことで危険度は下がります。しかし、渡す時にいくつかの注意点があります。車の鍵を要求された時には犯人の足元に放り投げること。カバンや財布を要求されたら、口を開けて逆さにして中身をばらまくこと。そうすることで犯人がばらまかれた物を拾う間に逃げることも可能です。手渡しだと逃げる暇がなく、被害者がそのまま車に乗せられ人質に取られるなど、さらなる被害に遭うリスクが高まります。
カージャックや車上荒らしに遭った後は、車のレジストレーションなどの情報を基に、犯人が被害者の家に侵入することもあります。事件後は鍵を取り替え、アラームシステムを導入するなど自宅の安全対策を万全なものにした方がいいでしょう。
また、2019年に米国内で発生した車両の盗難の件数は60万台以上に上っています。これは44秒に1台、アメリカのどこかで自動車が盗まれていることになります。特に人々の移動が増える夏に盗難が多いため、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)により毎年7月がNational Vehicle Theft Prevention Month(全米車両盗難防止月間)に定められています。
NHTSAが車両盗難を防止するために自動車のオーナーに呼びかけているのは、次のようにあくまでも「駐車する際に常識を働かせる」ことです。
- 車を離れる際は鍵を携帯すること。車の鍵を車内に放置しない。
- ウィンドーを閉めてロックする。
- ゴミが散乱しているような場所には駐車しない。
- 車内に貴重品は置かない。特に車外から見えるような場所に置いたまま駐車しない。
自動車の窃盗団は、売却してお金になる物を狙います。自動車が盗難されるのはホイールカバーが目当てというだけではなく、エンジン、トランスミッション、エアバッグ、GPS、さらに車内に置き去りにされた携帯電話やパソコンなども価値がある獲物と見なされます。

空き巣
空き巣は英語で「Burglary」。家やアパート、オフィスなどに物品を盗む目的で無断侵入する犯罪で、重罪として扱われます。空き巣を完全に防ぐことができる対策は存在しませんが、それでもいくつかの方法を組み合わせて、被害に遭わない可能性を少しでも高くすることが重要です。
狙われるのは、金持ちの家ではなく「侵入しやすい家」だと言われます。よって、庭に犬を飼う、セキュリティーシステムのサインを表示するなどで、侵入される可能性は下がります。このように「うちは空き巣対策が万全」と、日頃からアピールすることが必要なのです。
空き巣は長期間の留守宅だけを狙うわけではありません。家から一歩出るだけでも施錠することが大前提です。鍵は鉄の棒がドア枠の穴に入り込むデッドボルト式のものをお勧めします。ドアノブの回転にロックをかけるものだけでは安全性は低いです。できれば、これら2つの鍵を二重で取り付けることが理想的です。空き巣はドアを外から触っただけで鍵の種類を判別することができます。デッドボルト式の鍵は破りにくいので空き巣の抑止力になります。
鍵を玄関のマットの下や植木鉢の中など秘密の場所に隠して、家族で使い合うケースもありますが、これは絶対に避けるべきです。なぜなら、空き巣はそういう場所をチェックするからです。
また、前述のように「侵入しやすい家」が狙われる傾向があるため、住人の家族構成や年齢層が把握しやすくなる、外から家の中が見えやすい状態は避けるべきです。もし、住人がシニアだけだと分かってしまった場合は、狙われる確率が高くなります。家の周囲には長いハシゴや台なども置かないようにしましょう。家の脇に放置してあるハシゴで2階の施錠していない窓から侵入したという事例も多数報告されています。
長期間家を留守にする場合は、新聞や郵便が届かないように配達の休止を依頼すること。郵便受けから郵便物が溢れ出している状態だと、家が長期間留守だということを公言していることになります。また、車はガレージに入れず、ドライブウェイに駐車しておきましょう。ドライブウェイに駐車することで誰かが家にいるというサインにもなり、犯行の抑止力になります。門灯や家の中の照明をタイマーで一定時間になると点灯するようにしておくと、さらに安心です。親しくしている隣人に家の監視を頼めるのであれば、依頼した方がいいでしょう。

銃犯罪
銃社会アメリカでは、学校やショッピングモールなどの公共の場所で、突然、乱射事件に巻き込まれる可能性もあります。誰が銃を所持しているか分からない状況の中、そのような事件の被害者になる可能性をゼロにすることは困難ですが、万が一、発砲音を耳にしたら、最初にすべきことはその場から安全に脱出することです。そのためにもどこに出口があるかを事前に把握しておくようにしましょう。犯人からできるだけ遠くに移動することが最善です。
上階の場合、途中で止まる可能性があるエレベーターを使用せず、必ず階段を使います。犯人の視界に自分が入っていると確信したら、逃げる時はジグザグに走るか、障害物に隠れながら離れます。警報器を鳴らすのはお勧めできません。余計に人々を混乱に陥れるだけです。その代わりに自分の声で"Gun"または"Gunman"と叫びましょう。逃げるのが困難な場合は犯人の視界に入らない場所に隠れます。そこで物音を立てずに救援が来るのを待つのです。
アメリカでは多くの職場や学校で、日本での火事の際の避難訓練同様に、銃乱射事件時の避難訓練を実施しています。「まさか自分の身に起こるはずはない」と訓練を軽視せず、緊急時にどのような行動を取るべきか、どうやって避難すべきかを事前に習得しておくことが重要です。
少し前になりますが、2015年にロサンゼルス郡保安局が乱射事件の現場に立ち会った場合の生き残り方について紹介した10分程度の動画を公開しました。次のリンクから見ることができます。
● SURVIVING AN ACTIVE SHOOTER-LA County Sheriff
www.youtube.com/watch?v=DFQ-oxhdFjE

![]() | 【取材協力・監修】Intersec ロン長谷川さん |
【車関連の防犯グッズ】
ここ数年で多発しているのが、自動車のマフラーのパーツであるキャタリックコンバーターの盗難です。そこで盗難対策として、盗難防止プロテクターの取り付けを推奨しているエコドライブ社の代表、鈴木さんに話を伺いました。
「コロナ禍が始まってから加速度的に増えているキャタリックコンバーターの盗難ですが、犯行グループの目的はコンバーター自体の転売ではなく、コンバーター内に使われている特殊金属です。パンデミック以前の弊社への相談件数は月1件程度であったのが、今は月に4、5件ほどと増えています。プロテクターを装備しないということは、家に例えると鍵をしないのと一緒です。少しでも盗難リスクを軽減できるように、弊社では市販のプロテクターにさらに改良を重ねてカスタムしています。プリウスなどの一般車両であれば施工費用は450ドルほどです。ちなみにキャタリックコンバーターの交換となると3000ドル近い負担となります」。
キャタリックコンバーターのプロテクター以外に鈴木さんが勧めるのはドライブレコーダーの装備です。「それ自体は盗難を防止するものではありませんが、パーキング録画機能付きのドライブレコーダーを装着するのも効果的ですし、『IN CAR CAMERA RECORDING』などと書かれたステッカーをウィンドウに貼ることで(盗難の)抑止力にはなります」。
また、キャタリックコンバーターを含めた車上荒らしの犯罪の被害者にならないために、鈴木さんは次のようにアドバイスしています。「車を停める場所が重要です。路駐は極力避けて、ゲートの中など外部と遮断される場所に停めることが最善策です。路駐しか方法がない場合はできるだけ人目に付く明るい所に駐車しましょう。また、数日間停めっぱなしといったことは避け、できることなら毎日でも車の場所を移動することをお勧めします。ここアメリカは日本と環境が違うこともあり、自分の身は自分で守るしかありません。自分にはそんなことは起こらないだろうと思っても、実際起こってしまうのがアメリカなのです。自分は大丈夫だとか、勝手に判断したりせず、行きつけの整備工場や信頼できるショップなど、プロの意見を聞くことをお勧めします」。

キャタリックコンバーターのプロテクター(ワイヤーなど)。
![]() | エコドライブ 鈴木敦さん |
日本人が巻き込まれやすい犯罪とアジア系へのヘイトクライム
次にアメリカで暮らす日本人はどのような被害に巻き込まれる傾向があるのか、そのためにどのようなことに注意すべきかについて、在シアトル日本国総領事館の杉本領事と、在ポートランド領事事務所の平澤領事に聞きました。
2021年6月中旬現在、外務省の「2020年海外邦人援護統計」がまだ公表されていないため、はっきりとした数字は出ていないものの、両領事館が扱った援護件数は19年より減少するだろうとのことです。コロナ禍で外出が減ったこと、旅行者が減ったことが原因と考えられます。一方で、生活面支援や生活相談の数は減っていません。
個人情報詐欺

昨今、IRS、移民局、社会保障局や運転免許局などをかたり、ソーシャルセキュリティーナンバー(SSN)などの個人情報を求める詐欺事案が全米で多発しています。
平澤領事は「移民局などの公的機関からSSNや生年月日、銀行の暗証番号を聞くことはないと知っておいてください。怪しい電話がきたら、相手の名前、連絡先を聞いていったん切り、その機関に確認。怪しければ警察に通報をしてください」と話します。
また、杉本領事は「メールやテキストは、差出人名やメールアドレス、電話番号をよく確認し、その機関は実在するのか確かめてください。また、クレジットカードの使用は、使うたびにメールやテキストで報告が来るように設定しておけば、カード情報が漏洩した時に、すぐに気付け、被害を最小限に食い止めることができます」とアドバイスしています。
アジアンヘイト
昨今、報道されているヘイト関連事案は、日本人を含むアジア系の人々は届けを出さない傾向があると言われています。しかし、警察や行政当局に通報することで、事件の所在が明らかになり、地域の安全向上にもつながるので、被害を通報することが重要です。
また、杉本領事は「ヘイトクライムは地元警察に加え、FBIが捜査をすることがあります。FBIと地元警察は全ての情報を共有しているわけではないので、ヘイト被害に遭ったら、地元警察への通報に加え、FBIにも連絡をすると犯人逮捕に近付く可能性が高くなります」としています。
さらに、被害に遭ったら警察と併せて、領事館にも報告をしましょう。再発防止のために領事館から警察や行政当局に働きかけることができ、もし、精神的ケアが必要ならば領事館からサポート団体の紹介も可能です。また、実態把握ができることで、邦人社会に注意喚起を呼びかけられ、二次被害を防ぐことができます。
シアトルの状況
シアトルの治安の現状について、杉本領事は「シアトル領事館に寄せられている犯罪被害で多いのは窃盗です。昨年は、スーパーのカートに置いたカバンを取られた、車で信号を待つ間にロックをかけていなかった車のドアを開けられ、座席に置いたカバンを取られた、日本帰省中に空き巣に入られたなどの報告がありました。また、ダウンタウン・シアトルでは、パンデミック以降、ビジネスマンや観光客が減り、ホームレスが増えました。一部の公園がホームレスのテントで占拠されるようになり、テントの中から違法薬物が使用された痕跡が見つかることもあるようです。コロナ前後で街の状況は一部変わっており、前は大丈夫だった場所だから、今も大丈夫という油断は禁物です」と話しています。
ポートランドの状況
ポートランドのこの1年での傾向について、平澤領事は次のように話します。「日本人の巻き込まれた事件で多いのは、車上荒らし、空き巣、置き引きなどです。家や車の鍵をかけず、数分離れただけでも事件は発生します。中には家の前に停めた車にガレージの鍵を置きっぱなしにし、空き巣がその鍵を使ってガレージに侵入した事件もありました。また、ポートランドでは、昨年7月以降、拳銃発砲事件が増加しています。本年1~4月までの件数は昨年の同時期比で、ほぼ倍です。さらに、ポートランドの昨年以降からの大きな変化といえば、デモや抗議活動でしょう。昨年は100日以上連続で抗議活動が行われ、現在でも、参加者の暴徒化、放火や破壊活動がたびたび発生しています。参加者が暴徒化しやすいのは政府関係施設や警察関連施設の付近なので、極力そのような施設には近付かないこと。また、通常、抗議活動は昼間に始まっていったんは平和的に終わり、暴動が始まるのはその後の夜です。夜間の外出は避ける、不審な人物には近付かないなど、十分注意してください」。
安全の手引き・在留届
外出時の注意事項、治安状況や注意事項は、両領事館とも『安全の手引き』としてまとめ、ウェブサイトで公開しているので、目を通しておきましょう。
もう一つ、在留邦人として行うべきことは、在留届の届け出、または「たびレジ」の登録です。在留届は、日本国外に居所を定めて3カ月以上滞在する人が登録するもの。「たびレジ」は、海外旅行者や海外出張者などに登録が推奨されているものです。登録した地域の安全情報をメールで得られたり、事件事故や災害に巻き込まれた際に安否確認や迅速なサポートが受けられたりします。
「在留届は、一度出した後、他州への引っ越し、家族構成の変更、帰国などを届け出ない方が多くいます。古い情報のままだと、緊急時の安否確認ができないことがあるので、常に最新の情報に更新してください」と両領事館では呼びかけています。
【防犯の基本的な対策】(『安全の手引き』より抜粋)
目立たない。
- 人目を引くような華美な服装・装飾品を身に付けず、周囲の環境に溶け込むことが望ましい。
- 周囲を刺激するような乱暴な言動、目立つ行を取らない。
行動を予知されない。
- 毎朝のジョギングなど、外出時に日課を繰り返すなど、習慣的な行動は避ける。
- 通勤や通学などでの移動時間帯やルートを変える。
- 個人情報(名前、所属、住所、電話番号、行動予定など)を不用意にSNSに流布せず、不特定多数に知られないようにする。
用心を怠らない。
- 公共交通機関や人混みの中などでは、所持品から目を離さない。
- 多額の現金・貴重品を持ち歩かない。
- 見知らぬ人から話しかけられても、むやみに信用しない。特に道を尋ねられたり、署名運動への署名を求められた場合は警戒する。
- 単独での外出や、夜間の外出、人通りの少ない道はなるべく避ける。
- 周囲に不審な者や車両がいないか常に気を配り、尾行や監視をされていないか警戒する。
- デモや集会には不用意には近付かず、予期せず遭遇した場合は速やかにその場を離れる。
- 自動車での移動中は常にドアをロックし、窓も必要以上に開けない。
- 公共料金などの請求書や領収書など、個人情報が記載されている書類は細断、または焼却して捨てる。
【犯罪被害関連団体】
ワシントン州
Washington State Crime Victim Service Center
TEL : 1-888-288-9221
Web: www.wacvschotline.org
オレゴン州
Oregon Department of Justice Crime Victim and Survivor Services
Web: www.doj.state.or.us/crime-victims
【在留届・たびレジ】
届け出も登録内容の変更も、オンラインで可能。
www.ezairyu.mofa.go.jp
ヘイトクライム|日本人被害者に聞く事件の後遺症と伝えたいこと
2021年2月にヘイトクライムの被害に遭ったシアトル在住の日本語教師、那須紀子さんにお話を伺いました。
(※取材は4月後半に実施しました)

事件はシアトルのインターナショナル・ディストリクトで発生しました(実際の動画の画像)。
ー事件に遭遇した当時の状況を教えてください。
2月25日、パートナー(非アジア系男性)が住むシアトルのインターナショナル・ディストリクトで被害に遭いました。時間は夜の9時半。車の中から歩道で周囲の様子を伺っている不審者に気付きました。相手も私に気付き、じっと見つめてきました。私が道の反対に車を停めると道を渡って車の後ろに来たので、彼がまた道を横切って向かいの歩道に戻るまで、車の中でしばらく待っていました。その後、私は車から出てパートナーと落ち合い、一緒に荷物を取りに車に戻りました。すると、その男が道を横切って私たちの近くに寄って来て、突然、石を入れた靴下で私に殴りかかってきたんです。石が顔面を直撃して、私は意識を失い倒れました。気付いたらマスクが血だらけになってその場に座り込んでいました。その後、しばらく容疑者ともみ合っていたパートナーも頭を8針縫う怪我を負いました(那須さん自身も鼻を骨折し、歯を折る大怪我を負った)。私は護身用にペッパースプレーを持っていましたが、前触れもなく襲われたのでスプレーを使う余裕が全くなかったです。
ー容疑者は最初からアジア系を狙って待ち伏せしていたのでしょうか?
その時はそう思いませんでした。でも、金銭的なものは狙われなかったし、ERに運ばれた時に治療してくれた女医さんの旦那さんがアジア系だそうで、そのドクターに「あなたがアジア人だから狙われたんじゃないの?」と言われました。
防犯カメラの映像を見ると、容疑者は私のパートナーを避けて、私の顔面を目掛けて狙っているのが分かります。そして、私が倒れた後、そのまま立ち去ろうとする様子が映っています。だから元々私のことを殴りたかったんだと思います。その容疑者はインターナショナル・ディストリクトに住んでいるわけではなく、アジア人がたくさんいる地域に武器を用意してやってきて、攻撃する相手を探していたようです。彼は事件の1週間後に逮捕されました。
ー那須さんが受けた怪我の現在の状況と後遺症は?
鼻の骨折は初めて会う方には分からないくらいまで治りましたけど、前の顔を知っている人からは「顔が変わった」と言われます。私は見た目が治る頃には前の状態に戻れると思い込んでいたのですが、そうではありませんでした。当初は脳震とう程度だと診断されました。しかし、今も大きな音などが引き金になって偏頭痛が起こり、痛みがしばらく続きます。いつ治るか分かりません。事件直後はいろんなことが思い出せない記憶障害のような症状にも陥りました。08年からずっと住んでいる今の住所が思い出せなかったりしました。息切れにも悩まされています。症状が3カ月間治らなければ脳損傷の疑いがあるので、専門医に行くようにアドバイスされています。
ー日本語を教えるお仕事だそうですが、お仕事には復帰されたのですか?
私は高校で日本語を教えています。事件後2週間で顔の腫れが引いたので、授業に戻れると思ってオンラインで再開しました。しかし、1時間教えると体の震えが止まらなくなるので、授業の合間に横にならないと続けられない状態でした。ワシントン州の学校は対面式授業を再開していますが、校長先生の配慮で私は今も家からオンラインで教えています。
ーアジア系としてこれまでに差別された経験はありますか?
19年間のアメリカ生活で一度だけ、差別だと感じたことを経験しました。マウントアダムスに日本人の登山仲間と行った時、地元のダイナーで席に通してくれなかった経験です。でも、次の白人のお客さんはすぐに座らせてもらえました。明らかに差別だなと思いましたね。
ー今後もアメリカで暮らす予定ですか?
ずっとアメリカにいると思います。今回の事件は大きなものでしたが、大勢の見ず知らずの方々からお見舞いのお手紙、カードをいただいたことに感謝しています。どこにいても悪い人はいます。私は今回の経験を通じて、人々の温かさを実感する機会をいただいたと受け止めています。
ーアメリカ在住の日本人にメッセージをいただけますか?
日本人の方って意外と「自分はアジア人」と認識している人が少ないように思います。新型コロナウイルスが「チャイナウイルス」だと呼ばれていても、「私は中国人じゃない」と言ったりします。しかし、そういう考えは危ないと思いますし、逆に中国人に対する差別意識の表れだと思います。今の状況を解決するには、アジア人同士だけでなく、人種関係なく全ての人々との連帯が必要です。ヘイトクライムは誰でも被害者になり得るのです。
◎ この他の特集記事はこちら »
◎ シアトルの最新生活&観光情報こちら »
(ライトハウス編集部)







